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従業員が新型コロナウィルスに感染した場合、事業者が就業禁止をしなければならないか

2020/04/22

コラム

1 労働安全衛生法に基づく就業禁止

労働安全衛生法68条は、「事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかつた労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない」と定めています。その趣旨は健康を害している労働者本人の悪化を防止すること、同僚労働者に被害が及ぶことを防止することにあります。

 厚生労働省令である労働安全衛生規則は、「事業者は、次の各号のいずれかに該当する者については、その就業を禁止しなければならない」と定め、病者に該当する疾病として、「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかつた者」を規定しています(61条1項1号)。

 第1号の伝染性疾病について、労働省労働基準局長が発した「労働安全衛生規則の施行について」と題する通達(昭和47年9月18日基発601号の1)は、「病毒伝ぱのおそれのある結核、梅毒、淋疾、トラコーマ、流行性角膜炎およびこれに準ずる伝染性疾患にかかつている者」と例示しています。

 そして、労働安全衛生規則61条1項ただし書は「第一号に掲げる者について伝染予防の措置をした場合は、この限りでない」と規定しています。このような例外を設けているのは、できるだけ就業の機会を失なわせないようにし、やむを得ない場合に限り就業を禁止をする趣旨であるとともに、伝染性疾病には、例えば、麻疹、百日咳、インフルエンザ(流行性感冒)など比較的身近な疾病がありますので、伝染予防措置を講じた上で就業させないと事業の運営に支障をきたすことになるからです。

 また、労働安全衛生規則61条2項は、「事業者は、前項の規定により、就業を禁止しようとするときは、あらかじめ、産業医その他専門の医師の意見をきかなければならない」との手続も定めています。

 それでは、従業員が新型コロナウィルスに感染した場合、事業者は就業禁止しなければならず、その場合には産業医等の意見を聞く必要があるのでしょうか。他方で、事業者は伝染予防措置を講じれば就業させてよいのでしょうか。

 

2 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)に基づく就業制限

 答えはいずれも否です。

 新型コロナウィルスは、感染症法6条8号の「指定感染症」と定める政令が公布されましたので、感染症法に基づく就業制限が課されます。

 すなわち、感染症の患者や無症状病原体保有者(またはその保護者)は、都道府県知事から感染症法18条1項による通知を受けた場合には、同条2項に基づき、病原体を保有しなくなるまでの期間、飲食物に直接接触する業務および接客業その他の多数の者に接触する業務に従事することが禁止されます(感染症法施行規則11条2項3号、同条3項)。まん延のおそれがなくなったときは、感染症の患者等は、都道府県知事に対し、感染症法18条3項に基づき、同条2項の対象者ではなくなったことの確認を求めることができます。

 したがって、従業員が新型コロナウィルスに感染したときは、事業者が労働安全衛生法に基づき就業を禁止するのではなく、当該従業員自身が感染症法に基づき就業を禁じられることになるのです。

 また、労働安全衛生法が適用されるわけではないので、事業者は産業医等の意見を聞く必要もありません。

 しかし、感染症法には伝染予防措置を講じれば事業者が就業させてもよいとの例外は設けられていませんので、事業者は当該従業員に就業を命じることはできません。他の従業員に対する感染予防をすることが労働契約法5条に基づく安全配慮義務として求められるので、この観点からも感染した従業員に就業を命じるべきではありません。

 以上のように新型コロナウィルスに就業制限そのものについては、事業者が意思決定や手続をすることはありませんので、混同しないよう留意してください。

 

3 新型コロナウィルスに感染した従業員に対する賃金や休業手当の支払い

 業務外の事由で新型コロナウイルスに感染したことにより都道府県知事の通知をもって就業制限が課されたときは、就業規則等に病気による有給保障を定めていない限り賃金を支払う必要はなく、また、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないので、休業手当を支払う必要はありません。

 これに対し、業務遂行中に感染したのであれば、業務との因果関係の有無により労働災害と認定されるか否かにかかわらず、少なくとも休業手当を支払わなければならなくなることがあります。

 なお、健康保険に加入しているのであれば、傷病手当金が支給される可能性がありますので、従業員に周知しましょう。

 また、従業員から「風邪の症状があるが出勤する」と申し出があったが、会社が他の従業員への感染を懸念して出勤停止を命じた場合は、新型コロナウイルスへの感染が確認されない限り就業制限はなされないので、会社都合の出勤停止となり、休業手当の支払義務が発生します。

 

執筆者プロフィール

弁護士 佐久間 大輔先生

労災・過労死事件を中心に、労働事件、一般民事事件を扱う。近年は、メンタルヘルス対策やハラスメント防止対策などの予防にも注力しており、社会保険労務士会の支部や自主研究会で講演の依頼を受けている。日本労働法学会・日本産業ストレス学会所属。著作は、「過労死時代に求められる信頼構築型の企業経営と健康な働き方」(労働開発研究会、2014年)、「長時間労働対策の実務 いま取り組むべき働き方改革へのアプローチ」(共著、労務行政、2017年)など多数。

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