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新型コロナウィルスへの感染予防のための職場環境の整備

2020/04/24

コラム

1 快適な作業環境を維持管理するための措置

 呼吸器疾患を有する従業員から、新型コロナウィルスへの感染リスクがあるために対策を講じてほしいとの申告があった場合、どのような対策を講じればよいのでしょうか。

 一般的には、マスクの着用、手洗い、事業場内のアルコール消毒や室内の換気などが考えられますが、本稿では、労働安全衛生法に基づく快適な作業環境を維持管理するための措置の具体策として、特に事業場内の空調や温湿度について解説します。

 労働安全衛生法は、事業者に対し、健康障害を防止するため必要な措置を講じ(22条)、また、労働者を就業させる建設物その他の作業場について、通路、床面、階段等の保全ならびに換気、採光、照明、保温、防湿、休養、避難および清潔に必要な措置その他労働者の健康、風紀および生命の保持のため必要な措置(23条)を講じなければならないと定めています。

 具体的な措置は労働安全衛生規則(以下「規則」といいます。)が定めています。空調や温湿度以外にも、規則には飲料水、休憩室、通路、床面、照度、照明、清掃、便所、食堂および救急用具などの措置が定められています。

 第1に空調について、従業員を常時就業させる屋内作業場においては、窓その他の開口部の直接外気に向って開放することができる部分の面積が常時床面積の20分の1以上になるようにしなければなりません(規則601条1項)。ただし、換気が十分行われる性能を有する設備を設けたときはこの限りではありません(同条1項ただし書)。なお、事業者は、従業員を常時就業させる屋内作業場の気積を、設備の占める容積および床面から4メートルを超える高さにある空間を除き、従業員一人について、10立方メートル以上としなければなりません(規則600条)。 第2に温湿度について、事業者は、暑熱、寒冷または多湿の屋内作業場で、有害のおそれがあるものについては、冷房、暖房、通風等適当な温湿度調節の措置を講じなければなりません(規則606条)。そして、作業の性質上給湿を行うときは、有害にならない限度においてこれを行い、かつ噴霧には清浄な水を用いなければなりません(規則610条)。

 ですから、呼吸器疾患を有している従業員がいるかどうかに関わらず、事業者は、上記の健康障害防止措置を講じなければなりません。それでは、法令に規定された措置だけを講じていればよいのかというと、必ずしもそうではなく、労働安全衛生法は、「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」と規定しています(3条)。

 従業員が新型コロナウィルスに感染することを予防するため、どのような措置を講じたらよいのかについては、最低限、労働安全衛生法令を遵守した措置を講じることが必要ですが、最低基準を上回る職場環境を形成するため措置は、当該従業員の疾病の内容や程度、他の従業員の健康状態、業種や作業環境などに照らし、具体的に検討する必要があります。

 対策を検討する際には、人事労務担当者が一方的に決めるのではなく、衛生管理者(衛生推進者)や産業医と協力して事業場を巡視したり、従業員全員から意見を聴取したりして、感染予防のための課題を把握することが先決でしょう。

 

2 テレワーク時の作業環境管理義務

 新型コロナウィルスの感染予防のため、テレワーク(在宅勤務)を実施している企業が多いと思われます。

 従業員の自宅は事業者のコントロールが及ばない空間ですから、事業者は快適な作業環境を維持管理するための措置を講じる義務を免れるのかというと、労働安全衛生法にはこのような除外規定はありません。したがって、在宅勤務であっても、オフィス勤務と同様に労働安全衛生法に基づく作業環境管理だけでなく、作業管理や健康管理(衛生三管理)の措置も講じなければなりません。

 したがって、事業者が、在宅勤務中の従業員に対し、少なくとも空調や温湿度について労働安全衛生規則が定める衛生基準を満たすよう指導する必要があります。

 このことは労働時間も同様です。在宅勤務であっても、労働時間状況把握義務(休憩時間、中抜け時間を含む)を負い、オフィス勤務でなければ事業者の義務が軽減されるわけではありません。そこで、眼精疲労などの健康障害を防止するため、「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和1年7月12日基発0712第3号)と同等の衛生基準を備えるよう従業員に必要な指導をします。

 とはいえ、自宅は事業者が直接措置を講じることができる領域ではありません。そこで、人事労務担当者としては、従業員に指導の内容を文書でまとめて配布したり、指導をした事実の記録を付けたりしておき、衛生三管理の実行を証拠化しておくとよいでしょう。

 

執筆者プロフィール

弁護士 佐久間 大輔先生

労災・過労死事件を中心に、労働事件、一般民事事件を扱う。近年は、メンタルヘルス対策やハラスメント防止対策などの予防にも注力しており、社会保険労務士会の支部や自主研究会で講演の依頼を受けている。日本労働法学会・日本産業ストレス学会所属。著作は、「過労死時代に求められる信頼構築型の企業経営と健康な働き方」(労働開発研究会、2014年)、「長時間労働対策の実務 いま取り組むべき働き方改革へのアプローチ」(共著、労務行政、2017年)など多数。

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