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第4回 パワハラ防止法とSOGIハラ

2022/04/18

シリーズ:社会の動向②

この連載では、LBGTQに関連する労務管理について、法令に関する情報、国・自治体・経済団体などの動き、人事労務の現場での実際の対応の仕方など、様々な切り口で検討していきます。

第4回は、2022年4月1日から中小企業でも防止措置が義務化されたパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)とSOGIハラ(SOGIに関するハラスメント)の関わりについてです。

パワハラ防止法とSOGIハラの関係

 SOGIとパワハラ防止法に何の関係があるのかと思った方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、パワハラ防止法の指針の中に、「性的指向」「性自認」という言葉が出てくるところが4か所あります。

●パワハラの6類型のうち、精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)に該当すると考えられる例
「人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む」

●パワハラの6類型のうち、個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)に該当すると考えられる例
「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること」

●個の侵害に該当しないと考えられる例
「労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと」

●併せて講ずべき措置の内容
「職場におけるパワーハラスメントに係る相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものであることから、相談への対応又は当該パワーハラスメントに係る事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること。なお、相談者・行為者等のプライバシーには、性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含まれるものであること」

 まとめると、指針では、性的指向や性自認に関する侮辱的な言動やアウティング(本人が望まないのに第三者が性的指向や性自認を暴露すること) がパワハラにあたりうるということが示されています。また、措置義務の1つであるプライバシー保護措置は、性的指向・性自認の情報も対象とする旨が明記されているのです。

 なお、「精神的」な「攻撃と個の侵害」のみに性的指向や性自認に関する例が入っているからといって、SOGIハラが他の類型に該当しないということではありません。むしろ、パワハラに該当するSOGIハラが明確に例示されたのですから、どの類型のハラスメントであっても(類型に該当しないハラスメントであっても)SOGIハラがパワハラに該当しうると考えるべきでしょう。

 つまり、パワハラについての研修や啓発には、SOGIハラに関する内容も含むべきということになりますし、パワハラに関する相談窓口や事後対応の体制は、SOGIハラについても対応できるようにする必要があるということです。

SOGIハラについては、パワハラ防止法にだけ注意すればよい?

 ただ、SOGIハラについて防止・禁止や救済措置を定めているのは、実はパワハラ防止法だけではありません。

 発注元やサプライチェーン・マネジメントを行う企業にSOGIについての差別禁止規定がある場合、契約にあたって発注先やサプライチェーン内の企業にも差別禁止措置を求める場合があります。特に、東京オリンピックのサプライヤー、ライセンシーおよびそれらのサプライチェーンに対して、組織委員会がSOGIによる差別的取り扱いやハラスメントの禁止を要請したため、SOGI差別禁止規定を持つ企業はここ数年で一気に増えました。また、文京区など一部の自治体では、取引する事業者がSOGIに関する差別的取り扱いをしないよう求める文言を契約書類に記載しています。このような理念的な「差別禁止規定」においては、「差別禁止」の意味を広くとらえていることが多く、ハラスメント禁止の意味合いを含むものも多くあります。

 さらに、豊島区など一部の自治体では、SOGIについての差別的取り扱いやハラスメントが、条例に基づく救済制度の対象になっています。このような制度がある場合、労働者が自治体の制度を使って企業への指導やあっせんを求めることができ、実際に、2020年、豊島区内の企業で働く労働者が、豊島区の男女共同参画苦情処理委員制度を使って職場でのアウティングおよびハラスメント被害について救済の申出を行い、苦情処理委員によるあっせんを経て和解に至りました。

 他にも、SOGIハラによる精神疾患発症が労災認定された事件や、SOGIハラやアウティングについて、使用者責任・安全配慮義務・職場環境配慮義務などを問う裁判なども起こっています。

 SOGIハラに関する規定や体制の整備を行うにあたっては、ハラスメント防止法制に加え、取引企業が取引先に要請する基準、自治体条例、労災補償、民事上の責任など、契約内容や法令を広く意識し、多様なケースに対応可能な体制を整える必要があるでしょう。

SOGIハラは、LGBTQだけのもの?

 法律・条例・契約等の面だけでなく、対象者や取り扱う内容の面でも、社内のSOGIハラ防止体制は、「広く」対応できるものであることが求められます。

 自治労の調査で、LGBTQはそうでない人よりSOGIハラ以外のものを含むハラスメント被害を受けやすい傾向があることがわかりました*1。直接SOGIに関するハラスメントでなくても、セクハラ・マタハラ・ケアハラなどの背景に、SOGIの違いによる力関係が潜んでいるケースがあることにも留意すべきです。

 また、SOGIハラの被害者になるのは、LGBTQだけではありません。近親者にLGBTQがいることでハラスメントを受けるケースもありますし、周囲からLGBTQだと思われた人も被害者になりえます。つまり、LGBTQではない、SOGIの面で多数派である人から、SOGIハラの相談が来ることも考えられるのです。

 SOGIハラの相談や事件は、いつどこで起こってもおかしくありません。中小企業を含む全ての組織にパワハラ防止措置義務が課されている現在、実効性のある「SOGIハラに広く対応できる体制」を作ることも、全ての企業にとって必要なことといえるのではないでしょうか。

*1 P.124-128,全日本自治団体労働組合第38年次自治研作業委員会「働きやすさと職場の多様性アンケート結果について」『LGBTQ+/SOGIE自治体政策(Ver.1.0)』2021年10月15日


執筆者

特定社会保険労務士 小田瑠衣

SR LGBT&Allies(社会保険労務士LGBT&アライ) 共同代表 


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