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人的資本経営と感情:エンゲージメントと幸福を追求する組織へ①

2023/08/03

コラム

「人的資本経営」は、従業員を単なる労働力としてではなく、企業に価値をもたらす「資本」と位置付け、その人の力を最大限に引き出すことで企業の長期的な発展を目指す経営の在り方です。具体的には、コンプライアンス、ダイバーシティ、組織文化、エンゲージメント、健康・安全・幸福、採用、人事異動、離職、スキルと能力、労働力の確保などのカテゴリが、人的資本経営で重要視されるポイントとして取り上げられます。

本コラムでは、これらのポイントの中で特にエンゲージメントや幸福に関連する「感情」に焦点を当てて考察していきます。 

人の感情が組織に与えるものとは?

 この2年間、「人の感情」への関心がこれまでにないほど高まっています。新型コロナウイルス感染症対策により対面での交流が制限され、テレワーク環境では「孤独感」に起因するメンタル不調対策が重要なテーマとしてあがるようになりました。孤独感からメンタル不調が生じると、生産性が低下するだけでなく、メンタルケアや休業が必要となる場合、企業としての人的コストも増加します。

 人は感情の生き物であり、やる気に満ちた状態で働くことで生産性は向上します。私自身、長年の企業勤務経験を経て、現在は社労士として複数の企業と関わっていますが、「感情」は働く上でとても重要視してきました。例えば、新規プロジェクトを進める際には、チーム内の感情を確認し、「不安」を払拭し、「やる気」を生み出すような意思統一の場を大事にしてきました。この過程を軽視すると、「不満」「不安」が蓄積し、部内で反発が生じ、プロジェクトが順調に進まなくなる経験も多々あったからです。

 現在は複数企業の外部支援者として関わり、労務トラブルへの相談を受けることもあります。労務トラブルの根本には「感情」が大きな要素となっていると感じています。法的なアドバイス含めご一緒に考えることもありますが、表面的な問題にフォーカスし、潜んでいる感情を軽視すると問題が複雑化することも感じているところです。

 一方で、安心感があり感情が安定した組織では、大きな労務トラブルが発生しにくく、生産性が高いと感じています。

新しい働き方と感情:テレワーク時代のコミュニケーション課題

 この2年間で、テレワークの働き方も珍しくなくなりました。テレワーク実施者の約8割の人は、その働き方を継続したいというデータも出ています。通勤間の削減や、ITを活用した環境整備が可能であれば、オフィスに出勤せずにオンラインで会議や情報共有ができ、業務がスムーズに進んでいる企業も存在します。そのため、オフィスの規模を縮小する企業も増えています。しかし、一方で、「孤独」によるメンタル不調やコミュニケーションの課題も浮上しました。

 ある企業経営者との会話です。「社員から、『同僚と感情を共有できず、相手の考えが分からない』という声が多く聞かれた。そこで登山をするというイベントを行い、同僚と登山を楽しんだことで、お互いの感情を理解しやすくなり、仕事のやりやすさにもつながるようになった。」との感想を聞きました。人と会うことで感情の交流をはかり、仕事のやりやすさにつながる人が多いことも認識されてきています。

 テレワークが快適であり、特にメンタル不調に悩まされない人も多くいる一方で、孤独感からメンタル不調に陥る人もいます。そのため、コミュニケーションの工夫を重視する企業が増えており、社会的にも孤独と向き合う方法に関する著作も増えています。

 おそらく、これほど「孤独」や「感情」について向き合った2年はこれまでなかったでしょう。感情は仕事をする上で重要な要素であることがより明確になりました。

採用面での感情の重要性

 下の図は、転職先の検討にあたり重視する要素です。第一位は「人間関係が良い」というものがあがっています。人のストレスの主な原因は人間関係ともいわれることがあります。良い人間関係を築ける環境では、感情的なストレスは減り、仕事もやりやすく、モチベーションも向上することは想像できますし、ポジティブな感情は人々の創造性や問題解決能力を高めて、結果として生産性を向上させるといったデータなどもでています。多くの人が「人間関係が良い」職場を求めることは自然なことでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

出典 パーソル総合研究所 人的資本情報開示に関する調査 【第2回】 ~求職者が関心を寄せる人的資本情報とは~ 「転職先の検討にあたり重視する要素」

 求職者が企業情報を得る手段として、「社員の口コミサイト」、「会社を知る友人や知人からの評判」、「SNS」などがあります。これらの情報は、感情を持った社員が発信し、伝わっていくものです。もし社員が企業に対してマイナスの感情を抱いている場合、その感情は言葉に影響を与え、求職者からマイナスにも受け取られる言葉を発信することになるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

出典 パーソル総合研究所 人的資本情報開示に関する調査 【第2回】 ~求職者が関心を寄せる人的資本情報とは 転職先の検討に使用する媒体・ツール

 社員の感情が、採用にも影響を与えることをご理解いただいたと思います。では、次に、働く上で重視する要素についてご一緒に想像してみましょう。

働く上で重視するポイントは人それぞれ

 多くの人は、仕事をする上で自分を認めてもらいたいと考えていますが、その他にも、個人の価値観や目標によって重視するポイントは様々です。ワークライフバランス、キャリアアップの機会、働く環境など、人それぞれ重視するものは色々です。求職者が「この企業に応募しよう」と思う動機は人それぞれですが、前提として、「この企業に応募しよう」といった動機につながる企業からの発信がなければ、応募する行動につながりません。

 そこで御社に質問したいと思います。

  「御社では、どのような要素が求職者の心を惹きつけるでしょうか?」

 この要素を明確にしていくことは、今後益々人材採用がむずかしくなる中、重要になってくるでしょう。

 今回のコラムでは、人的資本経営の中の特にエンゲージメントや幸福に関連する「感情」に焦点を当てて考察しました。次回のコラムでは、エンゲージメントや幸福につながるヒントになる企業をご紹介します。

第2回記事「人的資本経営と感情:エンゲージメントと幸福を追求する組織へ②」はこちら

執筆

米澤裕美(よねざわ ひろみ)氏
米澤社労士事務所 代表 特定社会保険労務士


ISO 30414 リードコンサルタント・(一社)日本テレワーク協会客員研究員
(一社)ブランド・マネージャー認定協会ブランド・マネージャー2 級・ ㈱ビジネス・ブレークスルー や東京理科大学オープンキャンパス等でブランド概論受講
著書 開業当初の士業のためのセルフブランディング 他多数
事務所ホームページ https://office-roumu1.com

<終了しました> 8月31日(木)「働き方ブランディングから始める人的資本経営」セミナー

本コラムの執筆者であり、『士業のためのセルフブランディング』などの著作を持つ特定社会保険労務士・働き方ブランドコンサルタントの米澤裕美先生によるセミナーを開催します! 

米澤先生は、ブランド・マネジャーやブランド概論について複数の場で学び、その知識やスキルなどを生かし、現在は、企業の社内外ブランディング支援もしているブランディングのスペシャリストでもあります。

本セミナーは「優秀な人材を確保・定着させたい」「ブレのない一貫性をもった企業ブランドを作っていきたい」企業様必見! 特に中小企業を顧問先に持つ先生方に、これからの人材獲得競争に打ち勝つための戦略として、ぜひ知っていただきたい内容となっております。奮ってご参加ください。

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